お嬢さまの初体験。

30/51
前へ
/255ページ
次へ
 空気を求めて、じたばたするわたしを見て、宗樹は深々とため息をついた。  すっと、自分の方にわたしを引き寄せて、流れるように電車の人ごみをかきわけると、奥の方に連れてゆく。  ちょっと……!  扉から離れたら、余計に息苦しいんじゃ……!  ぎゅっと、目をつむった時だった。  ふわり。  意外に涼しい風を感じて、目を見開いた。 「……あれ?」  わたし、電車の車両と車両の間の、連結器の近くに、いる。  しかも、宗樹の胸に、耳をつけた状態で隣の車両へ移動するための扉のほうを見てた。  風、連結器の扉の隙間から……来る?  電車が、がたん、と揺れるたび。  カーブで大きく曲がるたび。  少し、空気の流れが出来る……のかな? 「どうだ……?  少しは、マシ?」 「……う、うん」  宗樹の胸に、耳をつけているから、小さな声が大きく響く。  そして、わたしの答えに彼が黙れば、心臓の音が聞こえた。  宗樹の音だ。
/255ページ

最初のコメントを投稿しよう!

791人が本棚に入れています
本棚に追加