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とくとくとくとく……
電車に慣れている宗樹でも、このヒトゴミは辛いのか。
ちょっと早く打つ心臓の音が、何だか気持ち良かった。
……とくとくとくとく
「……すごいね。電車は案外静かなんだね」
世界が終わった、みたいな大きなため息じゃない。
宗樹の普通の息遣いが、聞こえるほどに。
「こんなに多くの人同士が近づいてるのに、ぎゅうぎゅう押されなければ、そんなに気にならないや。
誰の視線も感じないからかな?」
思わず呟いたわたしの言葉に、宗樹が視線を落としてわたしを見た。
「ふん、まーなー。
これでうるさかったら、やってられねーよ。
みんな、狭いし、暑ぃのから現実逃避したいのは同じだろうよ。
スマホいじったり、音楽聞いたり、それぞれが目的地に着くまで自分の世界に浸ってるから、下手な路地より他人の目、ねぇんじゃねぇの?」
「……うん」
「本当に、電車も人ごみも初めて、なんだな。
今までいつでも、どこでも運転手付きのでっけー車を乗り回してただろうに。
なんでまた、わざわざこんな苦労をする気になったんだか」
なんだ?
天下の西園寺家も、ここのところの不況で没落か?
なんて、目を細める宗樹の声、すっごく意地悪!
これに対抗しようと「ちがうもん!」って、小さく声をあげた時だった。
わたしにもう一つ。
とんでもない災難が襲いかかって来たんだ。
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