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「……なんだ、震えてるぜ? ヒトに酔ったのか?」
怖くて、恥ずかしくて。
困っていたら、宗樹が気づいて声をかけてくれた。
なんとなく、外しぎみだった視線をまっすぐこちらに向け、首をかしげる。
「そ……じゅ」
見上げたわたしの表情(かお)で宗樹の形の良い眉が、ぎゅっと寄った。
「こんな暑い所で青ざめてんじゃねぇよ……っと、もしかして、涙? 泣いてる?
足でも、踏まれてるのか?」
「ちが……誰か……触って……」
「……なんだと」
わたし、ほとんど喋れなかったのに、宗樹は全部を理解して、目つきを変える。
……もしかして、怒ってくれてるの?
『神無崎さんに比べて、だいぶ優しげなイケメン』の第一印象が総崩れになるほどの強い力で、目をギラッと光らせた。
宗樹は、ほとんど力づくで、人ごみの中をぐるっと回ると。わたしと体勢を入れ替え、今いる場所から出来るだけ遠ざけた。
……のに。
わたしのお尻を触ってたヒトは、急に移動しても、まだわたしのスカートを握って離さない。
宗樹は、そのヒトの手首をぐぃ、とつかむと鋭く怒鳴った。
「てめ! ヒトのモノに触ってんじゃねぇぜ!」
まるで猛獣のうなり声みたいなその声に、今まで無関心だった周りの人がぎょっとした顔でわたしたちを見る。
そして。
宗樹に手首をつかまれ、わたしの前に引きづり出されたヒトが……やがて静かに泣きだした。
彼が相当怖かった……みたい。
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