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「ごっ……ごめんなさいっ!」
も~~イヤ。
わたしってば自意識過剰すぎ……
おしりを触られた時とはまた別の恥ずかしさで、なんだかじたばたしたい気分だ。
助けてくれた宗樹に、本当に申し訳なくて!
頭を下げたら、宗樹はひらひらと手を振った。
「あんたは別に『痴漢だ』とは騒がなかったろう?
俺が勝手に勘違いしただけだ。
つかんだ手もだいぶ小さいって、すぐ判ったはずなのに。
そんなことにも気がつかなかった」
「……でも」
騒がなかったのは、ただ声が出なかっただけで……!
そう、言おうとしたわたしに、宗樹は手のひらを向けた。
「ストーーップ。もういいぜ。
思い返すだけでも、俺が恥ずかしい。
……とりあえず、本物の痴漢に出会わなくて良かった。
それで、良いじゃねぇか」
「う……うん」
わたしが曖昧にうなづくと、宗樹は自分の頭をガシガシと掻く。
「……本っ当に、ナニやってるんだろうな、俺。
今から、西園寺に関わる気なんざ、これっぽっちもなかったはずなのに。
お嬢さをんガッコの駅まで連れてゆく気になって。
痴漢に会ったかも、と思ったらこんなにすげー腹立つなんて」
……そんな風に独り言みたいに口の中で呟いて。
扉のガラスに背中をつけ、天井を見上げた宗樹の表情(かお)は、もう何もしゃべりかけるな、って言われているみたいだ。
だから、声をかけられなかったけれども。
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