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「すっげー昔……ずーっと前の時代の話だけどさ。
航海中、嵐にあった船が沈没する寸前。
女が海に身を投げて死ぬかわり、嵐を起こした海神の怒りを鎮め、船員の命を救ったんだと。
命拾いしたヤツは喜んで……でも陸に着いたらすぐ、それぞれの故郷に帰って行った。
けれどその船員中で一番偉いヤツ、身を投げた女の恋人だけが、死ぬまでここから出て行くことは無かったんだと。
で『君(きみ)去(さ)らず』から『君去津』になったとか」
「ふ……ふーん、でもこんな話は……珍しくないよね?」
日本の海辺を旅行するたび、良くそんな話を耳にする。
悲しいけど、特に怖い話でも噂でもない話だってうなづいたら、宗樹は、これからが本番だと、片目をつむった。
「昔は、この駅がある場所も丸々海の底に沈んでいて、さ。
その、身を投げた女が死んだ場所が、まさに、ここ」
「……ウソ」
「本当(マジ)」
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