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蝉の喧騒がいっそうます夏真っ只中、太陽は今日もよく燃えている。夏の行事のひとつである七夕に、鶴の少女―藤川ちるが、ある屋敷に招待され訪ねたのは一月も前になる。彼女にとってそこで見聞きしたことは楽しい思い出である。
今、ちるは旅支度を整えていた。
「ちるさん、お客様のところへお願いしますね。」
ちるに声をかけたのは、彼女が働かせてもらっている店の主人である。ちるはにっこりと微笑み、主人から品物を受け取る。
「では、行って参りまーす。」
「お気をつけていってらっしゃい。たくさんのものをしっかり見て、感じてくるのですよ。」
「はーい!」
見送る主人の言葉にちるは明るい返事を響かせた。
*****
六日間の鉄道旅を終え、西の王国の駅に降り立った。木造が主流の東の皇国とはまるで違い、石造りで細部まで繊細な彫刻がなされている。そして堅牢な造りだ。
駅構内は比較的涼しかった。
だが、駅を一歩外へ出れば、燃え盛る太陽の強さを思い知る。
「むしむしはしていませんが、お日さまが熱いですー…。」
鶴のセリアン―獣人―である彼女は、はっきりいって暑さには弱い。焦がす勢いの太陽に参りそうである。
「…午前のうちにお届けものを終わらせましょうかー…。」
*****
知らない土地を地図を示しながら道行く人々に尋ねて、ようやく目的地に着き、無事届けものを終えた。
「なんとかお届けすることができてよかったですー。」
依頼者は彼女をもてなしてくれたため、おかげでだいぶ回復した。だが、真上に南中した太陽の力強さはいっそうと増していた。
「熱いですー…。それに、お腹もすいてしまいましたー…。」
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