第1章

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 幽霊なんて不確かな存在を、信濃隆平(シナノリュウヘイ)は信じちゃいない。  くわえて言うのであれば、妖怪だとか超能力だとか、そういう見ることも触れることも感じることもできない、認識することができない存在を彼は信じちゃいなかった。認識できなければ存在しない、あってはいけないとさえ信濃隆平は思う。   高校生の頃、学内行事で自称マジシャンが来たことがあった。彼に対し信濃隆平は、批判したわけでもニュースの有識者の討論のように怒鳴りあったわけでもない。 むしろ得心いったぐらいだったと、信濃隆平は思っている。    自称マジシャンは、自分のそのマジックについて色々言っていたけれども、信濃隆平が明確に覚えているのはこの言葉だけだった。 「皆さんは前提から間違っているのです。マジックや超能力はファンタジーに見られる魔法とは全く違うのです。必ず裏があります」  裏があれば表がある。つまり僕たちは見ることができる、存在する。だから認識できない物ははなから「無い」のだ。  そうかんがえれば自称マジシャンの彼は決してインチキではないのだ。彼は、他人が一見ファンタジーじみた行為に見えるものを、科学の延長線上とも言える単なる技術で行っていたにすぎないのだ。  この言い方でわからなければ少し視点を変えるといい。僕ら人類が初めて火をあつかった時、僕らはなぜ火がおこるのかわからなかったはずだ。でも時が進むにつれ、火がおこる現象が明らかとなった。  つまりはそういうことだ。  すべては僕らの理解が追い付いていないだけなのだ。  幽霊なんてただの見間違いで、超能力何て人体や自然の不思議なのだ。  だから信濃隆平は信じない。不確かな存在を信じない。  彼女に会おうと思うまでは。
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