第1章

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夏、  彼が、出て行った。 春、  一通の手紙が、私の元へ舞い降りた。   『結婚、しました』  短すぎる文章  一人暮らしには広すぎる部屋の隅、  ダブルベットはとって置いたのに、  彼が戻ってもいいようにしていたのに 夏、  一人の女性とであった。  重たそうな荷物と  重たそうな双子らしき赤ちゃんを抱えて、  お腹も重たそうに膨らんでいた。  双子の赤ちゃんは寝ていた。  荷物を持つと、  中身の重さがひしひしと伝わってくる。  これが、子を持つ大変さなのか。 秋、  女性、さちさんと仲良くなった。  さちさんは朗らかで、  愛らしい人だった。  双子の兄妹も愛らしく、  きっとお腹の子同じように愛らしいのだろう。  だって、父親も美しいのだから。  結婚式の写真には、  幸せそうなさちさんと  さちさんの横に並ぶ、元夫が写っていた。 冬、  気まずそうなさちさん  元夫は憤りを露にしていた。  私は必死に誤解を解こうとした。  別にさちさんと彼を引き裂こうと、  さちさんを不幸にしようとしたのではない。  さちさんの照れた顔と、  双子の兄妹の笑った顔を見れば、  そんなのどうでもよく思えたのだ。 三年後、春、  さちさんと合わなくなった。  双子の兄妹の顔が懐かしくなる。  悲しかった。  彼は私を酷い女だと思っていた。  さちさんは私を怖がっていた。  結局、  三年前の春から  私は彼にとってどういう女か  しっかりと気づいていたのだ。 夏、  保育園の前で、  手を繋ぐ双子の兄妹。  あの子たちに似ていた。  可愛いな、  思わず頬が綻んだ。  母親が双子の兄妹の前に来た。  さちさんだった。  もしかして、  そう期待した瞬間、 「××さん?」  私の名前が、さちさんの口から零れ落ちた。 秋、  双子の兄妹は言っていた。 「パパはとても優しい」  と。  さちさんも幸せそうだった。  三人目の子も、やはり愛らしい。  さちさんの、  子供達の笑顔を見れば、  彼が出て行ってよかったのだと思えた。  彼が、私が、他の誰かが  新たな幸せをつかめる切っ掛けだったから。    
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