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あたしたちは土手べりに自転車を置いて、ゆっくり下へ降りた。
人一人いない河川敷の、雑草の絨毯にごろりと仰向けになる哲太。
あたしも少し距離を置いたその隣に、三角座りして。
そしてまた二人で、月を見上げた。
しばらく黙ったまま、ずっと空を見ていた。
聞こえるのは、リー、リーと涼やかに鳴く、虫の声。
時折優しく頬を撫でていく、夜風。
このまま時が止まってしまえばいいのに。
なんて考えて。
そっと唇をかみしめた。
「俺が生まれた日」
「え?」
唐突に口を開いた哲太を、ひたと見た。
頭の後ろに両手を組んで、寝そべったままの哲太が、ちらりとあたしに視線をよこして、淡く微笑む。
「真夜中で、すげー綺麗な満月だったんだってさ」
「……そうなんだ」
「お袋、言ってた。俺が生まれて真っ先に、お前の母さんが病院に会いに来てくれたって」
えっ。
「あたしの……お母さんが?」
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