#20 王子の帰還

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あたしは椅子から立ち上がって、口元を覆った。 この光景をはっきり瞼に刻みたいのに。 涙で滲んで、よく見えない。 鳴り止まない歓声。 入り乱れるみたいに飛びついて、抱き合って喜ぶ、城英メンバー。 涙でくしゃくしゃの、鶴岡君と猪塚君。 哲太と肩を組んで、天を仰いで何かを叫んだ佐久田くんの顔も、 泣き顔だった。 コートの真ん中で少し困ったみたいな微笑をたたえた哲太の瞳が 静かにベンチのあたしに向けられ。 そして綺麗なその顔をクシャリとさせて、そして右手で、ピースサインを作ると、 いつかのように、白い歯を二って見せて。 艶やかに、笑ったの。
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