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もう無理。
これ以上平静を保ってられない。
「いいよな?モモ」
悪い夢でも見てるみたいに、佐久田くんが凛と響く声で哲太に言う。
「俺、上杉と付き合っていいんだよな?」
その場にヘタリ込みそうになった時、目の前の哲太がお腹を折り曲げて笑いだした。
「くははは!……マジかこれ。どういう展開?もう笑うしかねーわ、俺」
「!」
「よかったじゃん、みは。佐久ちゃんと両思いでさ」
茫然自失のあたしに哲太はなおも。
「けど知らないぞ?佐久ちゃんは俺と違って真面目だけど、マジで手ェ早いから」
「おいモモ!嘘つくな」
アハハとまた高らかな笑いを残し、哲太はあたしと佐久田くんの間に肩を割って入ると、そのまま廊下の向こうを去って行く。
その後ろ姿が校舎の向こう側の渡り廊下に消えるまで、わずかに細めた目で追っかけたあと。
佐久田くんはゆっくりと、視線をあたしへ戻して。
そしてあの独特の大人びた甘い瞳で、照れるように微笑を返した。
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