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「また処刑人が出たってよ」
翌朝、街中でそんな声が度々あがった。
処刑人とはとある人物の異名である。
3年前から出現したその人物は、真っ暗な仮面をかぶり指名手配犯や、横領などを犯した貴族などを中心的に狙い、殺害してきた。
3年間で数十名の殺害を行っているにもかかわらず、国から指名手配される様子もないことから、一部では国の手配した暗殺者なのではといった声もあるが、その正体は不明である。
「処刑人……か、そんな大層なものじゃないんですけどね」
街の人々の畏怖とわずかな憧れを含んだ声を聞いていた黒髪の少年は、少し俯きながらぽつりと呟いた。
「ん?なんか言ったか?シロ」
「いや、なんでもないですよ」
その声に黒髪の少年シロの隣で一緒に歩いていた赤髪の少年セキが問いかけると、シロは柔らかな笑みを貼り付けた整った顔をセキに向けるとそう告げる。
2人の少年は現在所属している魔法学校への通学中である。
「しっかしうちの学校も毎朝早くからめんどくせえよな」
「仕方ないですよ。虹色学園は名門ですし」
会話からわかるように2人は、数多くある魔法学校の中でも1つしかない国立魔法学校である虹色学園に通っている。
虹色学園は国から援助をうけ、多数の優秀な魔法使い達を輩出してきたエリート校なのである。
そして、そのエリート校に通う生徒達はもちろんエリートであり、将来を期待された魔法使い候補といったところか。
(将来を期待された魔法使い候補ですか、僕の将来に何を期待しているのですかね)
学園のことを思い浮かべるシロは、ふと自分の手に視線を落とす。
(罪を犯した人とはいえ数多くの命を奪ってきた僕に光の当たる道は存在しないはずなのに)
隣に立つ、セキは17歳として年相応の笑顔をシロに向け、その笑顔の眩しさはシロの心にそっと陰を落とす。
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