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「…久しいな」
腰まである銀に輝く髪を風になびかせ、男は懐かしげに女を見つめる。
「…時が経つのは早いものだな」
「あなたが言う台詞とは思えない」
女もにっこり微笑み、男に腕の中にいる幼子を見せた。
幼子は泣くどころか、声をあげて笑った。
「おお…おお…、昔のお前にそっくりではないか」
男は、嬉しさのあまり伸ばしかけた手を幼子に触れる前で苦々しく握りしめた。
「お前の子に触れてやることも出来ん。時とは残酷だな」
「あなたがそんなことを言ったら、みんな悲しみますよ?」
鈴の声が一斉に騒ぎ出す。
風が一瞬、通りすぎて二人の髪を揺らした。
男は、女から視線を一切逸らさなかった。
「そなたの願いは分かっている」
女は無言で頷く。
「…魔王との子なのだな…」
男の呟きに女は幸せそうに微笑んだ。
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