0人が本棚に入れています
本棚に追加
その笑顔に男は胸が締め付けられる思いだった。
その笑顔の裏にどれほど辛い想いをしてきたのか。
女は幼子の瞳を見つめると、幼子がキャッキャッと笑い出した。
「…今はまだその時じゃないの」
女は幼子の額に自分のを軽く当てる。
温かい体温が伝わってきた。
「…200年後、もう一度生まれなさい。お前の中に流れる血を信じなさい」
真剣な母親の声色が分かったのか、幼子は笑うのを止めた。
女はもう一度男を見上げると、男が頷く。
「…汝の願いを聞き届けよう」
男が手をかざすと、淡い光が幼子を包み、ふわふわと宙に浮いた。
微かに切なげな母親の顔を見た瞬間、光ごと幼子が消える。
「…あの子の名は…?」
「…リュイ…リューイ・クラクス…」
そう言うと女は、その場に崩れ落ちた。
「…いい名だ…」
動かない女の頬に男が触れると、風と共に女の身体は跡形もなく消えてしまった。
鈴の声は聞こえない。
大切な人の大切なものが無くなってしまったから。
最初のコメントを投稿しよう!