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暗い闇の中に、歪な木々が浮かび上がる。
ねじくれて、ぐちゃぐちゃと絡まりあって、もとは一つの塊のように生い茂っていた木々が、今はどれも半ばあたりからずたずたに切り裂かれている。
まるで巨人に踏み荒らされたような惨状。
僕はそんな森の残骸の中を歩いていた。
血と砂にまみれた足を引きずるようにして。
出口が遠い。
ーー君はもう戻れないよ。
耳元で囁く声がある。
ーーずっとずっと戻れない。君はずううううっと歩き続けても、もとの場所には帰れないんだよ。
耳にこびりつくようにして、何かの声が流れ込んでくる。
聞こえない、聞こえない、聞こえない。
僕は取り合わず、歩き続ける。
やがて、ここからの出口を見つけた。
それは格子状の柵だった。人の敵をある場所に閉じ込めるための、柵。
ああ、やっぱり。出られないなんて嘘じゃないか。
僕はわずかに安堵し、柵を登ろうと手をかける。
そして、柵に触れた指先が、先端からどろどろになって溶けだした。
驚いて手を引くと、指先だけがずるりと手から抜けて柵に引っかかる。
もう柵には触れていないのに、腕まで溶け始めている。
「……どうして」
ーーだから言ったじゃないか。
耳元で声。
ーー人以外がその柵に触れれば、柵の呪いによって消されてしまう。ほら、今の君みたいに。
僕は自分の体を見下ろした。溶けて、消えて、気づけばもう腕は残っていなかった。
どうして。
だって僕は。
声は囁き続ける。いっそあざけるように、嗤うように、甲高い声で。
ーーどうして、だって! そんなの決まってるじゃないか!
僕の心を殺すように、告げる。
ーーだって君は、とっくにーー
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