プロローグ

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「はっ……はあっ……! まだ追ってきやがるのか……」 奥歯を食いしばりながら足を動かし、前へ前へ進んでいく。汗が目に入って痛い。前髪がべたべたして気持ち悪い。肺は鉛が流し込まれたように動きが鈍い。 酸欠のせいか、だんだん頭の中を色々な光景が横切り始めた。ろくでもない過去の記憶だ。 数年前に見たきりの、両親の後ろ姿。 両親あてに何通も届く借金の催促。 いきなり家まで押しかけてきた借金取りの怒り狂った表情。 要するに俺は両親から借金を押し付けられたのだ。あの二人、俺を置き去りにして借金から逃げやがった。残された俺は何年もの間借金取りから逃げ続けている。 「くそ、くそ! あいつら今日は粘りやがるなぁ……っ!」 腕時計を見ればこの追いかけっこ、バイト帰りに捕捉されてから約三十分にもなっている。いい加減呼吸がきつい。十時半ーー健全な男子高校生であれば宿題やったり彼女とメールのやり取りしてる時間帯なんだろ?  俺はどうだ。こわもてのスキンヘッドと金髪のおっさん二人に延々追っ掛けられているのだからまったく世の中不平等である。思わず心の中で絶叫した。間違ってる! こんな青春間違ってる!……なんかムカついてきたな。何で俺ばっかりこんな目にあわねばならんのだ。 路地裏の出口が見える。俺がようやく薄暗い細道から、街灯のある道路へと帰還を果たす寸前、俺の目を過剰な光が襲った。車のヘッドライトだ。もったいぶるように運転席のドアをあけ、どう見ても堅気ではない男が出てくる。 ーー増援。 俺は退路を断たれたことを悟った。というか、連中の策略に見事にはまったらしい。後ろには追っ手二人、前には路地裏をふさぐように車が置かれ、さらに増援の男が俺を待ち構えているという絶望的な構図だ。 俺は迷うことなく前方へとダッシュ。増援の男との距離を詰める。相手のほうは近づいてくる俺に舌なめずりするような目を向けていた。 「ぎゃははははは! さんざん手こずらせやがって! お前も年貢の納めどーー」 「うるせェェェェェ!」 「ぐほぇ!?」 その顔面を、足で踏みつぶす。全力で加速したのち飛び上がって、男を踏み台にしたわけだ。一歩目は男のブサイクな顔に、二歩目は車の天井部分に置いて、車を飛び越える。
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