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ーー逃げ切った!
着地と同時に俺はそう思った。増援の男はダウン、もともとの追っ手は車が邪魔ですぐには追ってこられない。連中が車をどかすのに手間取っている隙に俺はとんずらすればいい。
「待ちやがれガキィ!」
「……」
待つわけないだろ。
追っ手の誰かが発した言葉を黙殺し、その場から離脱すべく俺はまた走り出した。
やれやれ、今日も逃げ切れた。何度もこの手の逃走劇はやっているが、今のところ捕まったことはない。また見つかってもそのたびに逃げ切ればーー
ーーいつまで?
俺はいつまで借金取りから逃げていればいいんだろう。
終わりなんかないんだろうなぁ。どんだけバイトしたところで俺には借金を返済するどころか、両親を見習って逃亡するだけの経済力などない。
いっそ死んでしまいたい、と思ったこともないわけじゃない。こんな人生じゃな。だがまさかーー
「ーーえ」
俺は間抜けな声とともに硬直した。確かに俺は疲れていたし、考え事もしていた。ここは車道の交差点だ。だが、まさかこんな近くに車が迫っているなんて。轢かれる寸前じゃねえか。
気づけば俺は走馬灯を見ていた。しかしろくな思いでなんてありゃしねえ。
「あーあ……」
俺はため息を吐いた。視界の先で、車の運転手が泣きそうな顔でハンドルを切ろうとしていたのが何だか可笑しかった。間に合わねえよ、それ。
そして次の瞬間、俺の体を途方もない衝撃が襲った。恐ろしい勢いで視界が流れ、体が浮き上がる。意識がブラックアウトする直前に俺は思った。
もし生まれ変われるなら、願わくば、人並みの人生を。
幻聴が俺の耳元で囁いたーー
「わかったよ」なんて。
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