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あるBARのカウンターに座る1組の男女。
「ねぇ、私と結婚しない?」
俺の隣に座る美女(俺からすれば魔女だが…。)に求婚をされた。プラチナブロンドの長髪を弄びながら俺を見つめてくる。女は大企業の社長をしていて、様々な事に手を広げている。そして、俺は女の秘書を務めている。
「申し訳ありませんがお断りさせて下さい。」
女の方を向き頭を下げる。カランっ、コップに入った氷が音をたてた。
「妹さんと弟さん」
「、っな!」
「浅原 薫 10歳、誠 16歳。貴方の妹さんと弟さんよねぇ?確か貴方が17歳の時に再婚した父親の再婚相手の連れ子だったかしら。」
「…。」
「私が経営している病院に昏睡状態の妹さんが2年前から目を覚まさない状態で入院。で、弟さんは医者を目指していたわね。優秀で周りからも評判はいいらしいわ。流石、貴方の兄弟ね。」
鞄から出した資料を読み上げる女。
「……。」
「もし、断わったら…分かってるでしょ?」
「っ、は、ぃ。」
腐っても大企業の社長。裏で手回しをするの何て簡単だ。そうすれば、薫と誠はっ、俺がどうなろうと弟達だけは……。
「それじゃあ、これから‘‘末長く’’宜しくね」
話が済むとそう言って、女はBARを出てて行った。
ーーーーーーーー
「いいんですか?」
話を聞いていたらしい若い店主に聞かれた。今まで、あの女と話していて気づかなかったが店主はかなり整った顔立ちをしていた。茶髪に男前な甘いマスクをした顔。口元にあるホクロが彼から色気を漂わせる。さぞかし、女性に持てるだろう。
「えぇ、いいんですよ。いいんです。」
そうだ、コレでいいんだ。俺が我慢すればいいだけ。そうすれば…
するっ、
「、っ、」
店主が手を伸ばして俺の頬を撫でる。何時もなら険悪感を感じ振り払う。なのに、振り払えなかった、いや、振り払わなかった。何故か、この人を、心地いいと、感じた。
「燈士。」
「あ、の?」
「如月 燈士。僕の名前です。愚痴を聞く位なら僕にも出来ますから…。溜め込み過ぎると体にも良くないですよ。」
「、ありがとう」
そう言って、俺は暫くの間だけ泣いた。
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