Secret ―Izumi―

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 ここに、友達は1人もいない。  知らない風景、今までより少し澄んでいる空気。その中に、唯一見慣れたコンビニの看板を見つけて、なんだかホッとした。  家にいる以外は、基本的にめがね姿。長めの前髪で目元を隠すのが定番だ。春風の強い今夜は、黒のハンチングをかぶってきて正解だったと、コンビニのガラスに映りこんだ自分の影を見て思った。  後から入ってきた女子高生2人が、陳列から雑誌を抜き取って迷うことなくレジへと向かっていく。その間もずっと、表紙や中を見ては楽しそうにしていた。  そのモデルが、ここにいる俺だってことに気付くことなく。  春休みのうちに引越しをして新しい街に来ても、今の仕事を続けている限りはたぶんこんな毎日が続くんだろうな。
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