472人が本棚に入れています
本棚に追加
/89ページ
匠は受験生だし、夏休みまえになんとかしないと、長い時間、会えなくなってふりだしに戻りそうな気がする。
いま、わたしはずうずうしくも、『匠』と呼び捨てるようになった。
当の匠は咎めるでもなく聞き流しているようだ。
「お母さんが会社から入場券もらって、それをくれたの。ゲートのまえに十時。待ってるから!」
考えこむように黙った匠を覗きこみ、断られるまえに急いで時間を指定すると、返事を聞かないでわたしは教室へと駆けだした。
そわそわしながら、一方では、待ちぼうけのすえ、すっぽかされるということも覚悟していたのに、わたしが着いたのとほぼ同時に匠はやってきた。
「匠、ありがと!」
「何乗るんだ?」
お礼は無視されて、ぶっきらぼうな質問が返ってくる。
最初のコメントを投稿しよう!