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1.あの頃
手に持った携帯電話を鏡台の上に置くと椅子に座って、立花美里(タチバナミサト)いう自分の顔と向き合った。
いくつになっても、独りでいると不安そうな、ともすればおどおどしたような表情は消えてくれない。
全部、自分のせいだとわかっている。
だれかに消してほしいと頼るのは子供すぎるだろうか。
わたしはいったん置いた携帯電話を再び手にして、呼びだしボタンを押した。
「わたし、美里」
『ああ。ごはん、食べた?』
答えた声はいつものとおり、からかうような口調だ。
低音で特別な周波を出しているらしく、わたしは特に電話の声には目眩(メマ)いがしそうになる。
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