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「あれ、ない。」
バッグをいくら探しても
車のキーが見当たらない。
仕方なく、もう一度会社へ戻る。
これで5分くらいロスだな。
自分の部署に入って
真っ先にデスクを目指す。
「帰ったんじゃないの?」
声をかけてきたのは
同僚の楠本(くすもと)。
「あー、うん。車のキー忘れて。」
「急いでんの?」
「今日デートだから。」
「へぇ。楽しんで。」
楠本はそのまま
自分のパソコンに向き合った。
デスクの端に忘れられていた、
車のキーを手にして
もう一度残っている人に挨拶をする。
「今度こそ、お先でーす。」
そのまま出ようとする。
が、入り口に1番近い楠本が
キャスター付きの椅子で
スーッと滑ってきて
進路を塞いだ。
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