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夏の忘れ物を探すかのように、秋の長い陽が部屋の奥まで手を伸ばす。窓から入る風は、警備員みたいにゆっくりと巡回して出ていった。
秋はどこかセンチメンタルで、振り返るにはちょうどいい季節。
おれは愛田 幸太郎。一応、探偵やってる。
今日もおれは、ウレタンチェアでくつろぎながら、タケシをひざに抱いていた。
相棒を紹介しよう。名はタケシと言う。三万匹に一匹しか産まれないという、オスの三毛猫だ。貴重な生き物だけど、芸もしなけりゃ働きもしない。
だけど彼には特殊能力が一つある。それは依頼人が悪いヤツかどうかを見分けることが出来るんだ。腹黒い人間だと寄りつきもしない。ただ、それだけどね。
博多の街は活気に満ちて、人々は忙しく駆けまわっていた。
だけど、ここ愛田探偵事務所だけは、時間が止まったように静かだ。
要するに暇なんだよ。
このままだと家主の娘の美智子から、厳しい家賃取り立てにあいそうだ。
それを援護する隣の巨乳弁護士、水嶋 瑠美が加われば、おれなんか軽く吹っ飛んじゃうよ。
ヤバイ。
仕事を探さなきゃ。
駅前でビラでも配ろうか。なんて思っていたら、急にタケシが顔を上げた。
同時にノックの音が。
(おっ、お客か!?)
タケシも心得ている。
おれが立ち上がる前に、ひざから飛びのいた。
勘のいいヤツ。今日は、魚肉ソーセージを一本つけてやろう。
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