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つらい悲しみが部屋に舞い降りて、全員が目を伏せる。その中で話を継げるのは、やはりおれしか居ないようだ。
「お父さんは命をかけて、裕子さんたちを守られたのですね」
こくんとうなずき、裕子さんはハンカチで涙を拭う。
「だから私の回りで、お金で人が亡くなるのはもう嫌なのよ。
お金は回すもの。持っている人が出せば済むこと。あの世まで持っていくのは、思い出だけで十分よ」
気持ちを落ち着けて、それからのことを語りだした。
「父の死を無駄にしないために、私と主人に残されたのは、皆が喜ぶ商品を作ることでした。
新商品のコンセプトは、何度でも食べたくなる、まだ誰も食べたことのない饅頭を。そして、手にされたお客さまが、笑顔になることでした。
事業の目的が利益を上げることだけに集中すれば、どこかで道を違えるものです。
なので材料は出来る限り、最高のものを使い、時間が経っても変わらない味を目指しました。
主人は朝から晩まで、新たな商品の開発に没頭し、私は家計を支えるために、働きに出ました。
そして試行錯誤の末、三年かかってようやく完成したのが『博多っ娘』です」
ひとつの商品には、開発者の様々な思いが含まれている。大人気の博多っ娘にも、語れない悲しきストーリーが隠されていたのだ。
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