ⅩⅤ

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   ひとつ息を吐き、昭三さんは続けた。 「先ほど言われた、『事業の目的が利益を上げることだけに集中すれば、どこかで道を違える』とは、深い言葉ですね。  確かに、目的が利益を上げることにとらわれれば、手段を選ばなくなり、社風は荒廃するでしょう。  逆に、手段が正しければ、自ずと利益は着いてくる。  経営とは、そうありたいものですね。今となっては遅いですが……」  自嘲気味の昭三さんの笑みを、裕子さんが弾き飛ばした。 「遅くなんかないわよ、昭三さん。今からでも間に合います」  笑みを捨て、昭三さんは眉を寄せた。 「今からでも、とは……」    裕子さんはふっと笑い、企業の会長らしく言った。 「先ほど昭三さんは、(ほどこ)しは受けない、とおっしゃられましたが、例え私が会長職だとしても、おいそれと三億もの大金を、右から左に動かせるものではありません。  上場はしていませんが、役員や株主を説得しなければ出せませんよ」  昭三さんは、はた、と言う目になった。 「申し訳ない。それはそうですよね。会社という組織であるからには」  昭三さんは、自身の反省を顔に浮かべている。  すると裕子さんは、エスティ運送の未来を告げた。 「お金を渡すだけでは、エスティ運送さんは立ち直りません。  三億円は、ビジネス契約を交わすための支度金として、御社に用意させていただくものです」  
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