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裕子さんは煌めく希望の数々を、高らかに謳いだした。
「弊社には二ヶ所の工場がありますが、生産が間に合っておりません。今後、業容拡大をにらみ、輸出にも力を入れようと思っております。それで長崎に新工場を建設していて、来年三月から出荷する予定です。
よければその配送業務を、エスティ運送さんにお願いしたいの」
角児の顔が締まってきた。一言も聞きもらすまいとする、経営者らしい目になる。
「トラックはどのような車種で、台数はどのくらい必要でしょうか?」
「工場はフル稼働させ、商品は直接、各店舗への配送となります。
試算では、チルド(冷蔵・冷凍機)付きの四トン車が、百台近く必要になると思いますよ」
さすがの角児も、百台と聞いておったまげたようだ。沈みゆくエスティ運送にとっては、願ったり叶ったりの話だろう。
三億円で悩みの負債が消え、毎月百台の運送料が入る。おそらく、その年間売上はかなりの金額になるはずだ。これで将来の展望も限りなく明るい。
角児の目が宙に舞う。角児の頭の中では、実際に稼働が始まった場合の、トラックの配車を考えているのだろう。それは角児の発言でわかった。
「会長、お尋ねしますが。弊社で回せるチルド付き四トンは、多分三十台くらいです。残りは下請けに出しても宜しいですか」
裕子さんは、もちろんだという顔をした。
「一社で、百台を揃えるのは大手でも厳しいでしょう。配送業者の選定はお任せします。
但し、稼働後の配車管理まで、御社にお願いすることになりますから、下請けさんのトラックも、三ヶ月に一度の法定点検を行っていて、コンプライアンスのしっかりした会社でお願いしますね。
まあその辺は、社長である息子を一度来させますので、詳しい打ち合わせは、その時に」
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