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角児はうつむき、反省と後悔を込め、感謝の言葉を漏らした。
「会長、お気づかいありがとうございます。これからもっと経営を勉強いたします。おかげさまで、弊社は立ち直れます」
頑張ってね、に続き、また裕子さんらしさをみせてくれた。
「社長。ひとつお願いがあるんだけど、聞いてくれるからしら」
何なりと。角児の低い声だった。
「福岡営業所の『吉永君』だけど、『彼』を実家に帰してくれないかしら」
角児が狼狽えた。何故、彼女の存在を知っているんだ。そんな顔をした。
頼子を見ると、相変わらず裕子さんに祈りを捧げるように、両手は胸の前だ。
裕子さんは何でもないように笑って言う。
「越権行為なのはわかっているけど、ごめんなさいね。
昨日、『彼』と会っていろいろと話をさせてもらいました。実家のご両親が心配だそうで、帰りたがっていたのよね。
私が都合しますから、特別退職金として、百万円くらい渡して欲しいのよ」
角児は観念したようにうつむいた。その横顔は悔しいというよりも、恥ずかしいことをしてきた。そんな反省の色を浮かべていた。
しかし参った。真理子や昭三さんに覚られないように、吉永いずみを男扱いした、裕子さんの判断には脱帽だ。
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