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あなたなら大丈夫、か。
力強い言葉だ。心の機微を知り、人を認め、人を信じられるからこそ言えるのだろう。
裕子さんの言葉のひとつひとつが、胸に染みた。自分に当てはめると、凄く痛かった。
成功者とは人を豊かにすることだ。
かといって、なにも金銭的なことだけではない。生きる希望を持たせ、環境を変えてやれるのも成功者の力と言えるだろう。
それによって人を幸せに導けるのが、真の成功者と言えるのかも知れない。
昭三さんも真理子も、目頭を押さえている。当の角児もそうみたいだ。うつむいたまま、顔を上げない。ただ時々、鼻をすする音が聞こえるから、心に深く刻まれているのだろう。
代わりに頼子が口を開いた。
「裕子さん、主人に暖かいお言葉をありがとうございます。
これからも家族で手を繋ぎあい、前に進みます。
それから、福岡の『吉永君』のことは、善処いたします」
微笑む裕子さんに、頼子が続けた。
「裕子さんには、何から何までお世話になりっぱなしで、本当に申し訳ありません。
差し出がましいのですが、私たちであなたに何かしてあげることは、ございませんか?」
すると、途端に裕子さんが顔を赤らめた。
どうしたのだろう。
少女のようにはにかみだした。
「実は……厚かましいお願いが、ひとつだけあります」
顔を輝かせ頼子が答えた。
「何ですか?
何なりと言ってください」
それでも裕子さんは顔を上げない。一体、何が恥ずかしいのだろう。着物の柄の紅葉までが、赤く染まっている。
ようやく覚悟を決めたようで、小さな声が聞こえてきた。
「あの……。
もしご迷惑でなかったら、私はこの近くにアパートを借りろうかと……」
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