ⅩⅤ

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   アパートを借りる?  意味がわからない。  この場に居る全員が同じみたいだ。互いに顔を見合わせ首をひねっている。代表して尋ねた。 「裕子さん、何のためにアパートを?」  だけど裕子さんのもじもじは治まらない。そして時々、熱い上目遣いを昭三さんに投げかけている。それでおれにはわかった。  裕子さんの純な気持ちに、助け船を出すことにした。 「昭三さん、裕子さんの願いを聞いていただけませんか?」  言い当てられた裕子さんは、驚いた目を見せた後、着物の袖で顔を隠した。  昭三さんの怪訝そうな顔が、裕子さんからおれに移る。おれは彼女が角児に言った言葉で背中を押した。 「さあ昭三さんの前に。  あなたなら大丈夫。きっと上手くいきますよ」  裕子さんは小さく顎を引いた。熱い思いを瞳に写し、昭三さんの前に立つ。 「もしも、皆さんが許してくれるのなら……。  私は昭三さんの側に居たいの。  さい……いえ、時間の許す限り、これからも私は、昭三さんと一緒に居たいの。  私のわがままを、どうか叶えてもらえませんか」  その言葉に、おれは泣きそうになった。  裕子さんは深々と頭を下げた。昭三さんが居なくなることを信じたくないのだろう。裕子さんは最後まで、と言いそうになるのを、時間の許す限りと言い直した。    ここに来た時に乗ったタクシーの運転手を思い出した。父親が仕事を休み、母親にずっと付き添ったと言う話に『それいただくわ』、と裕子さんが言ったのを。  彼女は、昭三さんの最後を、ここで見届けたいのだ。    そして、愛は出会う時だけではなく、最後の別れの瞬間にも、美しさが在ることを、おれは二人に教えられた。  
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