ⅩⅤ

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   会長ではなく、名前を呼んだことに、気持ちが込められているようだ。  角児の野郎め、泣かせやがる。  気がついたら、おれも頬を濡らしていたのだ。  見ると、頼子と真理子は、すでに号泣している。部屋の温度がまた上がった。  裕子さんも角児の手を取り、流れる涙が止められないでいる。 「ありがとう、角児さん。嬉しいお言葉でしたよ」  それから向き直り頭を下げた。 「頼子さんに、真理子さんもありがとう。優しいお気持ちに感謝します」  昭三さんが指先で目じりを拭った。 「ヒロちゃん」  裕子さんはハンカチで顔を押さながら、はい、と短く答えた。   「これから症状が進んだら、みっともない姿を見せると思うけど、それでもわたしを、最後まで看取っていただけますか?」  裕子さんは、瞳に決意を灯し大きくうなずいた。 「もちろんですよ、昭三さん。  長い空白はありましたが、あなたとこうして居られるだけで、私は幸せなのです。  ようやく私の夢が叶うのですよ。何があっても、あなたのお側を離れません。  どうか私に、お世話をさせてください」  裕子さんまで、泣かせてくれる。もう涙を我慢出来なくなった。  戦争という悲劇が二人を別ち、七十年もの月日を経て再会したのだ。  これから短い時間かも知れないが、死が二人を別つまで、添い遂げて欲しい。そして昭三さんには、幸せの中で旅立ってもらいたい。   止まらない嗚咽の中で、おれはひたすら願っていた。  
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