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昭三さんは何度も、ありがとうと言った。彼もまた、涙が止まらないようだ。
見かねたのか、裕子さんはバッグから新しいハンカチを出して、昭三さんにそっと渡した。
そのハンカチには、鮮やかな紫のキキョウが刺繍されている。
花言葉は『永遠の愛』なり。
七十年の時を経て、ようやく二人は永遠を分かち合えた。
ひとしきり涙した昭三さんは落ち着いたのか、笑顔を見せ真理子を呼んだ。
「すまないが、それをとってくれないか」
昭三さんのあごの先にあるのは、里の秋を奏でる、父親との思い出を込めた、あのオルゴールだった。
怪訝そうな顔を見せながら、真理子は昭三さんに手渡した。
昭三さんは大事そうにオルゴールを撫でると、裕子さんを見つめた。
「あなたに見せたいものがあるんだよ」
そう言うと昭三さんは、オルゴールをひっくり返して、底に貼ってある緑色のフェルトを剥がし始めた。そして、中から一枚の紙片のような物を取り出し、裕子さんに渡した。
何ですか、と笑みを浮かべていたのだが、受け取ると裕子さんは、感嘆の声をあげた。
彼女は口を押さえ、大粒の涙をこぼし始めた。
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