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おれも涙を堪えられなかった。ハンカチで顔を押さえていると、今度は真理子が心配そうに寄ってきた。
「どうしたの? 幸太郎さん……」
声を出せないおれは、ハンカチで顔を被ったまま写真を渡した。だけど誰だかわからないようだ。どこかのんびりとした調子で真理子は言う。
「どなたの写真?」
はにかむような声がした。昭三さんだ。
「それは僕とヒロちゃんだよ。昔、昔のな」
えっ!?
その驚く声に誘われるかのように、角児と頼子が写真を覗きこんだ。
おやじ若い。裕子さん綺麗。二人はお似合い、と様々な楽しそうな声がはずむ。
「よく残ってたな」
角児は写真を昭三さんに戻した。おれは裕子さんの肩を抱き、椅子に座らせた。
写真を眺め、昭三さんがしみじみと言う。
「恥ずかしい話だが、これだけは捨てられなくてな」
角児たちは、柔らかな笑みを見せている。この場をまとめるように真理子が言った。
「そっか。だからオルゴールに隠して、大切にしていたのね。それを病室まで持ってくるなんて。おじいちゃんたら」
昭三さんは頭を掻きながら、恥ずかしそうに言う。
「いやはや、面目ない」
それは全員の笑いを誘った。裕子さんもハンカチの下に笑顔を作っているようだ。
これから先はおれの出番だ。
今回はおいしいところは、すべて裕子さんに持っていかれた。主役としては焦るぜ。
このままじゃ主役の座を裕子さんに奪われて、パートⅢのタイトルが『安河内探偵事務所』になりそうだよ。
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