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おれは真理子に目配せをした。心得たように小さくうなずき、紙袋をおれに渡しに来る。中身を確認した。よし、大丈夫。
さあ、これからフィナーレだ!
おれは小さく咳払いをした。全員の目がおれに向く。声のトーンをあげた。
「もしも皆さんに異存がなければ、この場で、昭三さんと裕子さんの、人前式を執り行いと思いますが、いかがでしょうか」
みんな何を言ってるんだ。そういう目だった。
おれは、紙袋からレースのウェディングベールと、花束のブーケを取り出して全員に見せた。
これは昨日真理子にお金を渡し、用意してもらったものだ。訳を話すと彼女もノリノリだった。
意味がわかったのだろう、角児が拍手をした。
「ここで結婚式か、面白いな。おれに異論はない。賛成だ」
続いて頼子も拍手を重ねる。
「私も賛成よ」
驚いて目を丸くする裕子さん。
「嫌ですよ幸太郎さん。今さらそんな恥ずかしいこと」
だけど笑顔だ。まんざらでもないみたい。
照れてはにかむ昭三さん。
「そんな物まで用意していただいたのですか」
笑顔を作り、そのまま裕子さんを向いた。
「せっかくだから、ご好意に甘えましょうか」
小さく裕子さんはうなずいた。涙が乾いた頬が、ほんのり赤くなっている。
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