ⅩⅤ

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   おれはまた咳払いをして言った。 「え―、僭越(せんえつ)ではございますが、わたくしが神父役をやらせていただきます」  病室の中での結婚式。  新郎は八十七才の昭三さん。新婦は八十六才の裕子さん。二人合わせると百七十才を越える、ギネス級の新婚さん。何もかもが異例だ。  嬉しさを胸に留め、向かい合う二人。  立会人は、未来を胸に抱いた家族たち。  七十年前に行われていたはずの儀式が、今、笑顔の中で始まった。  うつむき加減の裕子さんに、おれはベールを被せ、赤い花束のブーケを渡した。真理子が、昭三さんに黄色い花束のブーケを渡す。  すでに二人は、新郎と新婦の顔になっている。  着物にレースのベール。アンマッチのような気がするけど、これがなかなか似合っていた。    おれは低く、だけど隅々までとおる声で宣誓した。 「これより、新郎、立石昭三さんと、新婦、安河内裕子さんの結婚式を執り行います」   
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