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   おれはオクターブを上げて返事を返した。だって客だったらみすみす逃すわけにはいかないからね。今日も悲しき貧乏探偵なんだよ。  おれは風よりも早く扉に移動した。ノブを回すと女性が立っている。それも小紋の着物を着た、品の良さそうなおばあちゃん。  顔は少しふくよかで、銀縁メガネに白髪頭。ドラマに出てくるような女将さんタイプ。  女性の年を当てたことはないが、恐らく喜寿は越えてるだろう。  だけどおれは失礼なヤツだ。 「あの……道に迷われましたか?」  だってまさか、こんなおばちゃんが客だとは思わなかったからね。  コスモスが刺繍された白いハンカチを口に当てて、彼女はオホホと笑った。上品な笑い方だ。 「こちらは、探偵事務所さんですか?」    つられちゃった。 「はい。探偵事務所さんです」  
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