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おばあちゃんは前で手を合わせ、かしこまりながら言った。
「実は、探して欲しい人がいるのですが。
こちらでお願い出来ますか?」
(お客様だぁ!!)
おれは飛びっきりの笑顔を浮かべ、『大切なお客様』を事務所に招き入れた。
「お茶でよろしいですか?」
おばあちゃんは頷きながら、はいと答えた。
その動作がゆったりとしているせいか、おれみたいに、がさつでせっかちな男には優雅に感じる。
おれはペットボトルのお茶をグラスに移して、テーブルに置いた。
見るとタケシの奴、ちゃっかりとおばあちゃんの膝の上でくつろいでいる。
申し訳なく言った。
「すみません。お着物が汚れますから、猫を退かしますね」
彼女は首を振った。貴族のように答える。
「いいんですよ、このままで。
たいした着物ではありませんよ。それに私は猫が好きですから、どうぞお気になさらずに」
お年寄りの言葉は日本の文化だね。相手を優しく包み込む話し方は、到底おれたちには真似ができない。
言葉は記号だ。相手に意味が伝わればいいんだよ。
そう言った評論家がいたけど、おれは違うと反論する。人間は言葉と一緒に感情を伝えるんだから。感情のない言葉は、ロボットだけで十分だよ。
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