4099人が本棚に入れています
本棚に追加
◆プロローグ◆
「蓮さん、私と結婚してください」
私の一世一代のプロポーズ。
自分でもびっくりしてしまうくらいに
口からこぼれ落ちた言葉。
……あぁ、私でもプロポーズとかできるんだ。
呑気にそんな事まで考えていた。
だけど、自分で言うのもなんだけど
私は決して度胸がある人間ではない。
私が言葉を発してから、蓮さんが口を開くまでの時間。
1分にも満たないその時間が
私にはとても長い時間に感じられた。
膝の上で握り締めた手は、小刻みに震えていた。
それに気付いた瞬間
不安を煽るように激しい鼓動を奏で始めた心臓。
左胸にあるはずの心臓が耳元にあるように感じた。
緊張の所為なのか
悪阻の所為なのか
よく分からない吐き気までこみ上げてくる。
だからなのかもしれない。
そのくらい緊張していたからなのかもしれない。
「よろこんで」
蓮さんの答えを聞いた瞬間
目の前に明るい光が差し込んできたような錯覚を感じた。
この広過ぎる世界でずっと孤独だった。
だけど、今の私は決して孤独なんかじゃない。
世界で一番大切な人に巡り会えた。
その人は惜しみない愛情を私に注ぎ
そして、一生変わらぬ愛を誓ってくれる。
きっとこれ以上の幸せなんてこの世には存在しない。
だから、これ以上のことを望んではいけない。
そう理解し、実感しているのに……。
◆報告◆
「おい、美桜」
「なに?」
玄関でサンダルを履こうとしていた私は動きを止め
後ろを振り返った。
そこにいるのはもちろん蓮さん。
お出掛けモードの蓮さんは
なぜか腕を組み、仁王立ちをしている。
私を見つめる蓮さんの顔は不機嫌極まりない。
……なに?
私なんかしたっけ?
ついさっきまでは普通だったはず。
ううん、寧ろ今日はお休みだからってご機嫌だったような気がする。
蓮さんが急に不機嫌になった理由が全く分からない私は頭を捻る。
そんな私に呆れたように盛大な溜息を吐いた蓮さんが
「それはダメだ」
やっぱり不機嫌そうに呟く。
「それ?」
蓮さんの視線の先にあるのは
履いている途中で声を掛けられた所為で
サンダルを片方しか履いていない間抜けな私の足。
「は?」
「……『は?』じゃねーよ」
そう言われた私は、首を傾げ“全然意味が分からない”って事を最大限にアピールしつつ
「あ?」
最初のコメントを投稿しよう!