第1章

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◆プロローグ◆ 「蓮さん、私と結婚してください」 私の一世一代のプロポーズ。 自分でもびっくりしてしまうくらいに 口からこぼれ落ちた言葉。 ……あぁ、私でもプロポーズとかできるんだ。 呑気にそんな事まで考えていた。 だけど、自分で言うのもなんだけど 私は決して度胸がある人間ではない。 私が言葉を発してから、蓮さんが口を開くまでの時間。 1分にも満たないその時間が 私にはとても長い時間に感じられた。 膝の上で握り締めた手は、小刻みに震えていた。 それに気付いた瞬間 不安を煽るように激しい鼓動を奏で始めた心臓。 左胸にあるはずの心臓が耳元にあるように感じた。 緊張の所為なのか 悪阻の所為なのか よく分からない吐き気までこみ上げてくる。 だからなのかもしれない。 そのくらい緊張していたからなのかもしれない。 「よろこんで」 蓮さんの答えを聞いた瞬間 目の前に明るい光が差し込んできたような錯覚を感じた。 この広過ぎる世界でずっと孤独だった。 だけど、今の私は決して孤独なんかじゃない。 世界で一番大切な人に巡り会えた。 その人は惜しみない愛情を私に注ぎ そして、一生変わらぬ愛を誓ってくれる。 きっとこれ以上の幸せなんてこの世には存在しない。 だから、これ以上のことを望んではいけない。 そう理解し、実感しているのに……。 ◆報告◆ 「おい、美桜」 「なに?」 玄関でサンダルを履こうとしていた私は動きを止め 後ろを振り返った。 そこにいるのはもちろん蓮さん。 お出掛けモードの蓮さんは なぜか腕を組み、仁王立ちをしている。 私を見つめる蓮さんの顔は不機嫌極まりない。 ……なに? 私なんかしたっけ? ついさっきまでは普通だったはず。 ううん、寧ろ今日はお休みだからってご機嫌だったような気がする。 蓮さんが急に不機嫌になった理由が全く分からない私は頭を捻る。 そんな私に呆れたように盛大な溜息を吐いた蓮さんが 「それはダメだ」 やっぱり不機嫌そうに呟く。 「それ?」 蓮さんの視線の先にあるのは 履いている途中で声を掛けられた所為で サンダルを片方しか履いていない間抜けな私の足。 「は?」 「……『は?』じゃねーよ」 そう言われた私は、首を傾げ“全然意味が分からない”って事を最大限にアピールしつつ 「あ?」
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