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蓮さんの口調を真似てみた。
それが間違いだったんだと思う。
私は選択を誤ってしまったんだと思う。
その証拠に
「……あぁ？」
私の口真似なんて足元にも及ばない
低音で
ドスが効いていて
凄み感満載の
迫力のある言葉が返ってきた。
「……!?」
完全にビビってしまった私は思わず後ずさってしまった。
私はすっかり忘れていた。
今、私は片方しかサンダルを履いていないという事を……。
当然の如くサンダルを片方しか履いていない私は後退した瞬間――
「きゃっ!!」
いとも簡単にバランスを崩してしまった。
突然の出来事にもかかわらず
私は両手でお腹を包み込むように押さえていた。
無意識の行動に一番驚いたのは私自身だった。
自分の身を守る前に、自分以外を守ろうとする。
そんな行動を自分が
しかも、無意識にするなんて……。
だけど、その感動を味わう暇さえない私は
次に襲ってくるであろう痛みに身構えた。
でも、私が感じたのは痛みじゃなくて
全身をスッポリと包み込むような温もりだった。
「……あぶねぇ」
頭上から落ちてきた声に私は安心し
そして、胸を撫で下ろした。
ゆっくりと閉じていた瞼を開くと
視界いっぱいに広がるグレー色。
頬から伝わってくるのは、規則正しい鼓動。
鼻を掠めるのは、出逢った頃から変わらず蓮さんが愛用している香水の匂い。
その全てを私は愛おしいと思う。
私は、もう一度瞼を閉じると
その広くて固い胸に頬を摺り寄せた。
そんな私に蓮さんは何も言わない。
例え頬を摺り寄せ
ファンデーションで高価なスーツを汚しても蓮さんは私を窘めたりしない。
ただされるがまま……。
私がしたい様にさせてくれる。
長い腕と大きな手で私を抱きしめたまま
それがどんなに長い時間だったとしても文句ひとつ言わず待っていてくれる。
時折、優しく私の頭を撫でながら……。
私はしばらくの間その心地いい温もりに身を委ねていた。
、蓮さんに思う存分甘えて満足した私はゆっくりと顔を離し、視線を上げた。
そこにあるのは、私を見下ろす漆黒の双眼。
優しく穏やかな表情の蓮さん。
さっきまでの不機嫌さはもうどこにもなかった。
……どうやら、閻魔大王はお帰りになられたらしい。
良かった……。
私は小さく安堵の溜息を零した。
そんな私を見つめたまま蓮さんが口を開く」
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