第1章

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「初めてここにお邪魔した日ですよね?」 「あぁ」 「はい、覚えています」 「あの時、私が尋ねた言葉は覚えているかい?」 「はい」 「今でもあの時の気持ちのまま変わりはかな?」 「はい、もちろんです」 私が答えるとお父さんは満足そうに頷いてみせた。 それから、私と蓮さんの顔を順番に見つめると 「おめでとう」 穏やかな笑みを浮かべそう言ってくれた。 「おめでとう、美桜ちゃん!!」 ついさっきあんな事を言ったのに、いちばん嬉しそうな綾さん。 「めでたいな。祝いの準備をしないとな」 お父さんもなんだか嬉しそうで……。 私は感じていた不安を払拭し胸を撫でおろした。 「でも、なんでこのタイミングなんだ」 ふと思いついたように疑問を口にしたお父さん。 私と蓮さんは自然と顔を見合わせた。 蓮さんが小さく頷き 私もそれに答えるように微笑んで見せた。 「実は、美桜の腹の中に俺の子どもがいる」 蓮さんの言葉に 「え?」 「え?」 全く同じ声を漏らしたお父さんと綾さんは 蓮さんの顔から私の顔へと視線を移し また2人で顔を見合わせて 「それって妊娠ってこと!?」 「妊娠してるのか?」 同時に叫んだ。 なぜか私を凝視するお父さんと綾さん。 報告をしているのは蓮さんなのに……。 そんな二人の反応がなんだかおもしろくて、不謹慎にも 「はい」 笑いを堪えながら答えた。 「そうか。それはダブルでおめでたいな」 「本当!! 今日は盛大にお祝いしなきゃね」 さっきにも増して嬉しそうなお父さんと綾さんに 私と蓮さんは顔を見合わせて吹き出した。 興奮気味に大騒ぎする綾さんと、そんな綾さんに苦笑しながらもやっぱりどこか嬉しそうなお父さんを眺めながら、私は幸せを感じていた。 「それで入籍はいつするんだ?」 お父さんの質問に 「入籍はできるだけ早目にしようと思ってる」 蓮さんが答える。 「あぁ、それがいいな」 「それともう一つ報告があるんだけど」 「なんだ?」 「結婚式は美桜の出産が終わって、落ち着いてからしたいと思ってる」 「あぁ、その方が安心だな」 「は?」 「うん? どうした?」 「……いや、いいのか?」 「なにが?」 お父さんが不思議そうな表情で首を傾げる。 「結婚式は早めがいいって言われるかと思ってたんだけど」 「なんで?」 「付き合いとか、面子とかあるだろ」 「誰の?」
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