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お父さんの周りには沢山の疑問マークが浮かんでいて
「……てめぇだよ」
あきれ果てたように蓮さんが溜息をこぼす。
蓮さんの言葉に、ようやく納得したような表情を浮かべたお父さんは
「そんなもんはどうでもいい」
にっこりと笑みを浮かべたまま、耳を疑うような言葉を言い放った。
「あ?」
「え?」
当然、蓮さんと私は驚き
綾さんはお父さんの隣で苦笑していた。
「これは、お前と美桜さんの事だ。だからそんな事、気にしなくていい。お前が今、気にしないといけないのは美桜さんとお腹の中にいる赤ん坊の事だ」
「……あぁ」
室内には穏やかな空気が流れていた。
◆◆◆◆◆
ドアをノックする音が聞こえて
『失礼します』
見たことのあるような人が顔を覗かせた。
黒いスーツをピシって着こなしているその人はお父さんの組の人。
私達に向かって深々と一礼したその人は
『親父、ちょっといいですか?』
神妙な表情でお父さんに声をかけた。
「あぁ」
お父さんが立ち上がりその男の人の元に向かう。
「どうした?」
スーツの男の人が声を潜め何かを告げている。
しばらくの間、男の人の話に耳を傾けていたお父さんが
「わかった」
そう答えたと思ったら
「おい、蓮」
こっちに視線を向けた。
「あ?」
突然、呼ばれた蓮さんは面倒くさそうに返事をする。
そんな蓮さんにお父さんがにっこりと微笑みかけた。
「仕事だ。ちょっと手伝え」
「はぁ? 俺、今日、休みなんだけど」
「ここに来ているんだから別にいいだろ。頑張れば1時間も掛からない」
「あ?」
「ほら、さっさと行ってさっさと終わらせるぞ」
お父さんの言葉に
「……ちっ……」
不満度全開で舌打ちをした蓮さんだったけど
「……仕方ねぇーな」
渋々と立ち上がると
「すぐ戻って来る」
優しい手付きで私の頭を一撫でするとお父さんと一緒に部屋を出て行った。
◆◆◆◆◆
「美桜ちゃん、おめでとう」
綾さんの嬉しい言葉に
「ありがとうございます」
私は照れ気味に答える。
「全然気付かなかったわ。……って言いたいところだけど」
「……?」
「本当はなんとなくそんな気がしてたの」
「え? 本当ですか?」
「直接聞いた訳じゃないから確信があった訳じゃないんだけど……」
「……?」
「蓮にね……」
「蓮さんがどうしたんですか?」
「いろいろ聞かれたのよ」
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