第1章

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 怒りの感情をせき止めていたダムは、音を立てて決壊を始める。次々に溢れ続けるグレーのドロドロした液体を私は止めることができない。 「なんだ? 急に黙って。言ってみなさい」 「先生の授業に……価値なんてないんです」  真冬の夜みたいに静まる教室。教室の全方位から私に向けられる視線は多分敵対心よりも鬱陶しい。ウザい。そんなところだろう。心の声でのみ呟かれる率直な感想を直接この耳で聴くことはできなかったが、教室の隙間から今にも漏れ出しそうな声なき声は私を圧迫させ回避不可能にした。 「……花園レイン。授業が終わったら職員室に来なさい。話がある」 「……わかりました」  そうして先生は食事中に気になるニュースがあり、動かすことを一時停止していた箸を再び動かすようなスムーズさで授業を再開させた。  私は前を向き、あたかも授業を聞いているような顔をしながら頭の中で全く違うことに思いを馳せるしかなかった。  早急に彼女の助けが必要だ。大好きな彼女の歌声を早く聴きたい。というか今すぐ聴きたい。  そう。最近私の頭の中を飛び回り続けている彼女の声。  弱者。悩める者。沈む明日を棄てようとする者。いつだって不快のみしか感じられない者。自分以外の全ての他人に劣等感を感じ続ける者。  そんな人間達の無意味な生に意味を与えてくれる女王。  ―――無力なれど羽抜け落ちるまでの叫び―――  彼女の声が今日は足りない。  私は脳内で彼女の囁くように細くて繊細で、殴りつけるような力強い叫びを頭の中で再生させる。暫らくすると頭の中は帰りたいという思考に向かっていた。 「はぁ……なんだ? 花園」 人生で一番最高の私の挙手に高山がため息をつく。 この位置から私が勢いよく上空に発射されれば、ピンと天に向った左手は天井に突き刺さり二度と抜けることはないだろう。 「早退します」 「どうしたんだ?」 1000%の疑い。そんな鎧を身に纏った刑事が、胡散臭い手品師のトリックを見破ってやろうといった顔つきだ。
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