夢現。

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冷たい、とてもめ冷たい場所だ。そこは決して古ぼけた場所ではない、どころか、その建物はけっこうしっかりとした作りの建物だ。すきま風どころか、騒音すらシャットアウトしてしまうような現代の建築技術の最先端を突き詰めたような場所だ。なのにどうして冷たい場所なのか、そのには私しかいないからだろう、その建物の一室に置かれた椅子に縛り付けられ、猿轡を噛まされた私しかいないからだ。ようは比喩でしかない、冷たいのはこの建物ではなくて、私の心なのかもしれないけれど、私に心があるのかどうかはとても怪しい。 心は折れてしまったから、無くしてしまったから水蒸気のように消えてなくなってしまってその胸のあたりにぽっかりと開いた穴にピューピューとすきま風が吹き込んで、そこが冷えているのかもしれない。虚無だ。 テレビやニュースで聞いたことがある。監禁や強盗の人質になった人間は、犯人と時間を過ごすうちに同情してしまうらしい、ストックホルム症候群だったかな、私もそれと似た感覚を覚えてしまった。 この建物に連れ込まれ、私を拘束した犯人に最初のうちは憎悪と嫌悪、侮蔑と軽蔑をしていたところだ。黙らされるために殴れて、泣き止むために涙をふかれる。食事を強引に喉に詰め込まれ、排尿するさまをニヤニヤと笑われながら鑑賞された。 優しさと、怖さの矛盾が私をおかしくした。疲れきっていく日々は私の心と身体をザクザクと浸食された。 『俺はさ、学生の頃はいつもこう思ってたよ。先生って職業ってやつにはどんな奴がなるんだろうなって、聞いたところによると教師になるような連中、特に女子校の男性教師ってのは子供や女が嫌いらしいんだぜ? 子供や女が嫌いだってのに、わざわざ嫌いな奴の場所に居たいのかね』 男はニヤニヤ笑い言う。 『あれかな、あれはマゾなのかもな、マゾヒストってやつなのかもな、あえて自分にストレスを与えることで自分の性的欲求を満たしているのかもしれないな』 そんな風に考え方をするのは貴方だけでしょうとは言えない、仕事に性的欲求を求める人間は、居ないだろう。まぁワーカーホリックという言葉もあるから一概にないとは言い切れないのが少し悔しいと同情してしまった私を恥じた。 『まぁ、好きで始めた仕事ほど、挫折したとのやりきれなさは半端ないけれどな、将来の夢、目標として挫折するくらいなら、嫌いなことを始めたほうがまだ、マシなのかもな』
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