夢現。

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『それに引き換えて、嫌いなことはいいよなぁ。嫌いなことで失敗したとしても、さして気にならないしな、どうせ嫌いなんだと言い訳ができるんだ。まぁ、一転してそれがやりがいになるんだから人生というやつはおもしろいもんだよなぁ。お前はニュースを見るか? バラエティーでもドラマでもいい、そこで夢を叶えたというやつがいるだろう? お前はどう思う?』 『…………』 そうやって男が一方的に語りかけてくるときは猿轡を外されていたから、返答することはできた。どうして男がこんな話をするか正直、わからないけれど、なんだか教師と生徒みたいだと思った。または塾の講師と生徒かもしれないけれど、一方的に雑学、価値観を語るところはおしゃべり好きな教師に似ていた。さして興味もない話を授業中の余談として話す、そういった人間は現国の教師に多かった。まぁ、その話のほとんどは数日たてば水蒸気のように霧消してしまうんだけれど。 『答えろよ。こうして一方的にペラペラ語るのも疲れるんだぜ。まぁ、俺から言わせてもらえれば、そんなのはたまたまだろうけどな』 『たまたま』 『たまたま、偶然だ。だって、考えてみろよ。テレビに登場して夢が叶ったなんてほざく連中はどいつもこいつも当然みたいな顔をしてるだろ。お前らとは違うんだぜとか思ってそうだろ』 『わからないよ。そんなの努力したんじゃないの?』 『芸能人なんて特にそうだ。自分達は特別なんだって顔してる。バラエティー番組やお笑い番組で拷問さながらの罰ゲームをしても許されるんだから、普通にやったら犯罪者だぜ、努力して暴力を振るう自由を得られたらそりゃいいね』 男が揚げ足をとるようにニヤニヤと笑ったので私は少しだけムッとしてしまった。 『夢を叶えるのに努力は必要だと思う、芸能人だって自由にやってそうだけれど、一度でも不祥事を起こせば即刻、解雇でしょ』 自由の対価というやつか、いつもテレビで見かけていた有名人がたった一回のスキャンダルであっさり消えるんだ。 『努力は夢を叶えるために必要なことだと? ハハッ、いいねー、青春だねーけれど、俺はその言葉には同情はしないぜ。だって努力したところで夢が叶うことなんてないんだからな』 『…………』 押し黙る、答えられなかったわけじゃない、犯罪者の男との会話に楽しさを感じている自分を許せなかっただけだが、私は口を開いた。 『どうして
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