祈り

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◆◆◆◆◆ この世が争いのない平穏な世界であればいい。 ある男が抱いたたった1つの渇望。 この時代、男が属する国民の多くが胸に抱いていた切なる願い。 国民の多くがそれを願う原因は7年続く戦争による精神の消耗。 突き付けられる家族、友、仲間の死。満足のいかない食事に飢える日々。いつ自分が死ぬか分からない恐怖に怯える毎日に人の精神は摩り切れる寸前であった。 国単位で見れば世界は、大国による資源確保のため他国を侵略し領地拡大を20年弱続けてきた。男が属する国は、大国に比べ国力は小さく資源も少ない。しかし大国はこの国に目を付けていた。 大国の目的は世界の統一。 大国を頂点とした世界構造の実現。我が民こそ世界を統べるに相応しいのだと平気で信じている。平気でいられるのは彼らが信仰する神の生い立ちにある。 彼らの信仰する神は、幼き頃荒れ狂う地上へと落とされた。幼き神は地上に住む種と触れ合うことで成長し荒れ狂う地上の災厄を止め、世界に平穏をもたらした話がある。 詰まる所何が言いたいのかと言うと、今の大国を統べる私達は幼き頃の神と共に地上の災厄を払い退けた者の末裔であると。 だから世界を統べるのは我らだと。 我らがこの世に蔓延する災厄を退ける新たな神となる。 その一歩として大国が未だに手を出していない東の大島を占領するための前線基地の設置が必要であった。そうして大国は海を越え東の大島への侵略戦争を開始した。 それから7年、大国とこの国、大国のやり方を良しとはしない小国の同盟軍の戦争は苦戦を強いられるも防戦の一歩を辿る。 争いの原因はすべて俺が消してやる。 それで平穏が訪れるのらならば簡単な仕事だろう。 多くの人々が望む未来を夢見ることのできる世界を俺が作る。 男の祈りが高まったとき、雲の切れ間から一縷の光が地上を照らす。 男の眼前に広がる100を軽く越える人間が身動き1つせず倒れている。 赤く粘りけのある生暖かい液体を流れだし床へと広がる光景を目に焼き付けるように凝視した。 先の空襲で燃える街、助けを求める人の声、誰かを呼ぶ声、様々な音が彼の聴覚を刺激し胸に抱く祈りに炎を灯す。 俺が世界に平穏を導いてやる。
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