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俺は言われるまま、滑稽品と呼べるような杉のタンスから着替えを取り出す。
部屋を出て2階の浴室に向かいながら、ふと考えた。
裕太を待たせてまで、話す事ってあったか?
あいつも相談をしたい雰囲気じゃないし…?
俺はタオルを首に引っ掛け、Tシャツとショートパンツ姿で3階に上がる。
普段は風呂上がりにショートパンツなど穿かないが、裕太がいるから下着姿はまずい。
そもそも、俺の部屋に来客があるのは珍しい事だった。
子供の頃から、俺は他人を部屋に招く習慣がなかった。
裏口から3階に上がれば店の客と顔を合わせる事はないのに、俺は妙に気が引けて外で遊んでいた。
元より、流行のゲームも持っていなかったし、余所の子の家で遊ぶのも楽しみだったのだが…。
俺は床に座り、ベッドに寝転んでいる裕太に言った。
「貧乏って、初めて実感したんだ。」
俺は缶ビールを飲みながら、昔を振り返る。
「商売やってるけど、家には金が無いんだな、と。
友達の家に行くと、ちゃんと玄関があって、リビングには絵だとか置物だとか飾ってある。
部屋にはゲームやパソコンもある。
そいつん家は普通より金持ちだったのかもしれないけど、他の友達の家に行っても、俺ん家とはやっぱ違うんだよなぁ。
何が違うんだろ?って考えてみたら、決定的な差が分かった。
つまり、俺ん家には古い物しかないんだ。
新しい物が買えないから、どんなに綺麗にしても汚なく見える。
ガキの頃はそれが嫌で、益々家に人を呼ばなくなった。」
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