恋の魔法にかけられて

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「よし!」 梨央はまたしても手を大きく鳴らすと 「ちょっとメイクもしよう! それに、髪の毛も、そのままじゃねえ。 道具とってくるから、待ってて」 と言うなり、飛び出して行ってしまった。 「え、えっ? そこまでしなくっても、いいんじゃない?」 梨央は言ったが、言うが早いか飛び出していった梨央の姿は、すでに扉の向こうへと消えていた。 自分の情けないような声ばかりが教室内にこだまする。 七海は梨央を引き留めようと伸ばした腕を、力なく下ろした。 「はあ……」 聞かれて困る相手がいなくなった途端に、重苦しい溜め息が漏れてしまう。 「本当に、こんなことしなくたって……」 宏に振り向いてほしいなんて、思っていなかった。 いや正直に言えば、振り向いてもらえると思っていないから、始めから期待なんてしたくなかったのである。 大勢の女の子に告白されている彼のような人に、自分のような地味でおもしろくもない人間が近づいても、笑われるだけだ。 現に、さっきだって、彼は七海の名前すら知らなかった……。 七海は教室の隅に姿見があるのに気が付くと、段々と暗い気持ちになるのを抑えて、その前に立ってみた。
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