プロローグ

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「こうして、お姫様と王子様はいつまでも幸せに暮らしましたとさ。 めでたし、めでたし……」 ナレーションが終わらぬうちに、わっと大きな歓声と拍手で、教室は一杯になった。 中央に立つ豪華なドレス姿の『お姫様』が、前に向き直って深く頭を下げる。 その目には、薄らと涙が浮かんでいた。 隣にいた『王子様』も、彼女にならって、軽く頭を下げる。 それから急に、彼は『お姫様』の手をとると、驚いたような表情を浮かべている彼女にはお構いなしに、高くあげてみせた。 その『演技でない』ハプニングに、観客たちは一層盛り上がる。 その様子を、少女は一人、制服姿のまま、舞台の袖に隠れるようにして、じっと見つめていた。 少女は『お姫様』を見て、ちょっと微笑んでから、『王子様』へと視線を動かしていった。 スポットライトを浴びて、額に汗を浮かべた彼は、文字通り光り輝いて見える。 ぼんやりとした意識をさ迷わせている間にも、客席から興奮した声が飛んでいた。 「本当に、付き合っちゃえばいいのに!お似合いだもん」 誰かが言うのを聞いて、その通りだというふうに、少女は小さく頷く。 しかし、納得している心とは裏腹に、胸の奥深くがチクリと痛んだ。 視線の先で、『お姫様』と『王子様』は、他の出演者たちと一緒に、もう一度深く頭を下げると、こちらの方へと下がり始めた。
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