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「疲れたー!」
『お姫様』が不意に、その美貌を台無しにするような悲鳴を上げて、少女の首に抱き付いてくる。
すると、『お姫様』を目で追っていた観客たちの間に、ちょっとしたどよめきが起こった。
「あれ誰?抱きつかれてる、ちっちゃい子」
「さあ?」
と、多くの者は少女を指さして首を振るばかり。
しかし、その中の一人がようやく
「ああ、ほらいつも梨央(りお)と一緒にいる子だよ。
名前は知らないけど」
「へえ、そうなんだ。
仲がいいって言っても、あの子は出演してないんだね」
「そうみたいだね。まあ、あんな地味な子が出てもねえ。
私たちが見たいのは、やっぱり梨央みたいに美人な『お姫様』と、それに釣り合う『王子様』なわけだし」
そんな話し声や笑い声が、他の観客たちの声に混じって、かすかに少女の耳にも届いた。
目の前の『お姫様』にも当然聞こえたのだろう。
『お姫様』は突然、少女から腕を離すと、たった今出て行ったらしい声の主たちの方へ駆け出そうとした。
しかし、それよりも一瞬早く伸びた少女の指が、『お姫様』の肘の辺りをつかむ。
「なに?だって……!」
「いいの。全然、気にしてないよ」
少女はにっこり微笑んで手を離すと、シワになったんじゃないかと心配するかのように、『お姫様』のドレスを整えた。
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