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叫ばねば出来ない会話。通は私の台詞を繰り返してから理解したようで、かてて加えて狼狽が増す。
「空襲警報! 空襲警報ってなんで! なんでこんなに煩いんだよ!」
「私が知る訳ないじゃない!」
それに言ったのは私でも空襲警報な訳がない。このサイレンが私達に向けて注意を促し、なんらかの危機を予め警告しているのだけは分かる。しかし、なら何故液晶画面の中で棒立ちの田中先生はなにも述べないのか。疑問が頭をぐちゃぐちゃ回して、途端に目尻が熱くなる。頭を左右に振り、雑念を払う。どうなっているにしろ、どうにかなって私達が危機に直面しているのは自明の理だ。けたたましいサイレンが断絶する。静かに引いて行くのではない。一寸の脈絡性もなく、消えたのだ。耳鳴りでじーんと痺れる。指先までもが痺れている感触がある。
「かなこ……逃げよう!」
そんな手を通の男子らしくない細い手が握る。汗が滲み、蒸れた手だ。どうにかしなければならないのに、それを今言えばどうなるか知っているだろうに、通は私を引き上げる。強引に立ち上がり、静寂に包まれた教室。誰かが重たいものを落としたのか、教室の中で色濃く鳴った。忽ち、前後左右は無茶苦茶になって、喚いて泣いて怒鳴って廊下に向けて突進を始めた。通も続き、私を廊下側に引き摺る。背筋に悪寒が走る。駄目だ。なにか間違えている。駄目だ。
「かなこ! 走ろう!」
「行きたくない!」
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