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私の勘は当たっていたのだ。どうしようもなく、なっちゃっているのに。恐怖が内臓を舐め上げる。寒気がした。足先から凍えて歯が鳴る。通も同じで、光景に怯えている。警告のサイレンは命の危機を報せていたのだ。強烈なサイレンが教えたのは絶命の可能性であって、廊下で繰り広げられた炸裂音が無情に駆ける。窓に広がった血に肉片らしきものがある。人の手。顔。そして真っ白な巨体。此方に向かず、廊下の群れをなんらかの方法で蜂の巣に変えている。変貌し遺骸になった見知った子。教室に戻ろうとする子もいたが、入る前に息絶えた。絶命間際の目が私を見ていた。懇願を捩じ込んだ目玉だ。
「……」
通に向けば、視線が交差する。教室の出口から逆の窓に向く。掃除用具を入れる為にあったロッカーだけしか隠れそうな場所はない。この教室は三階にあるので窓から外にも出れはしない。それしかない。白い巨体が私に気付いておらず、逃げ場がない。今度通の手を握るのは私の番だった。通を引っ張り、ロッカーに歩む。着くと扉を開け、狭くカビ臭い中に押し込む。多少嫌がっていたが、諦めて貰う。私も二秒心臓を宥め、通と図らずとも密着する形で中に入る。ロッカーの扉を後ろ手で閉め、開かないように手で押さえる。無理な格好だから痛い。
「……、かなこ……僕は怖いのかな?」
「私は……怖い?」
小さい、些細な声。恐怖心から逃走し身を隠したのは分かるが、実感がない。通の生温い息が顔に触れる。細く、枯れ木に酷似した身体が腕の中にある。泣き声、叫び声はする。している。現実味がなくて、恐らく感覚で理解した頃に私はどうしようもなくなっちゃって無意味に泣いて仕舞うのだ、漠然とした確信に似たものが渦巻く。
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